無題
  
  
  
  ぼんやりと天井を眺めながら、青年は少し切ない、静かな曲を聞いていた。
  
  普段からあまり派手な音楽を聴かない男であったが、今日は特別だった。
  
  普段から感情を表に出さない彼は表情一つ変えず、ただただ、オーディオから流れる曲を、聴いていた。
  
  彼女が大好きだった、余り有名ではない歌手の一曲。
  
  彼がこの曲を聴いている日は、基本的に朝まで起きている。
  
  学校がある日であろうと、休日であろうと。
  
  
  ……ふいに聞こえてくる、聞きなれた曲のものではない、単調な音。
  
  風をきるような、鋭い音、それはだんだんこちらに近づいてくるようだった。
  
  「……?」
  
  
  
  
  気が付いたときには、辺りは埃やら何かが壊れた破片で散々な状態だった。
  
  幸いオーディオだけは無事だったようで、同じ曲をくりかえしくりかえし、再生している。
  
  「痛ってぇ…、隕石でも……んん?」
  
  起き上がろうとしたときに腹の上に重みを感じた彼は、自分の上で何者かが、折り重なるように倒れている事に気づく。
  
  そっと、侵入者の長い髪を持ち上げてみると、端正な顔立ちが露わになった。
  
  どうやら女の子のようだが、どうにも違和感があるように思えた。
  
  天井と少女を見比べて、一考。
  
  「こいつ…空から……?」 
  
  と、そのとき、バサバサッと何かがうごめく。
  
  「………っったぁぁぁぁぁああああああああい!!!!!!」
  
  少女は突然がばっと起き上がり、大きな声で痛みをアピールした。
  
  「うおっ!、生きてる!?」
  
  少女がどこから降ってきたのかは定かではなかったが、古い家だとはいえ、天井を突きやぶるだけの衝撃をうけて、生きていた。
  
  「あたたた…何よまったく……あ…」
  
  少女はこちらに気づいていないのか、自分の腰に生えた、血にぬれた翼と、手に付いた自分の血とを見くらべて、唖然としていた。
  
  ……翼?
  
  普段から感情を表に出すことの少ない彼だったが、今度ばっかりは少々驚いていた。
  
  「おい……おいっ!」
  
  先ほどから腹と腰の辺りに痛みを感じていた彼は、なんとか声を絞り出し、少女に呼びかける。
  
  「なっ何…… !?、人間!?」
  
  少女は今気づいた、といわんばかりに、青年の方を見て驚いて見せた。
  
  「人間!?、じゃねぇよ…どっからきたとか色々言いたいことはあるが、まずはどいてくれないか。」
  
  少女はきょとんとしていたが、自分の姿勢に気がついたようで、
  
  「どいてって……あわわわっ」
  
  慌てて飛び起きたが、翼が痛むのか、そのままよろけて転んでしまう。
  
  「いたた……ぐすっ…うぅ…」
  
  よほど痛むのか、少女は今にも泣きそうだ。
  
  「怪我してんな……見せてみな。」
  
  青年が手を伸ばすと、少女は怯えたような、怒っているような表情で、にらみつける。
  
  「さっ、さわらないでよ!人間のくせにっ・・・たたた・・・・・・」
  
  威勢のよさもその場限り、痛みに耐えかねてうずくまってしまう。
  
  「やれやれ……ちょっとまっててくださいよ、っと。」
  
  彼はそう告げて、部屋を出て行った。
  
  
  
  
  
  「あ……あの…」
  
  
  
  怪我の治療も終わり、青年が屋根がないことの心配を始めた頃、少女が申し訳なさそうに口を開く。
  
  「なんだ、腹でも減ったか。」
  
  少女はムッとしたように、青年をにらみつける。
  
  「違うわよ!、 違うけど…その…」
  
  何かを言いたそうにはしているものの、気の強さが邪魔をしているような、そんな感じだった。
  
  青年はため息をつく。
  
  「まぁ、礼はいらねぇよ…、それより、この天井をなんとかしてくれんか。」
  
  少女は何かを言いかけたが、あきらめたように天井を見上げた。
  
  「……?、出入り口があったほうが便利じゃない?」
  
  青年はがっくりうなだれた、どうも会話がかみ合わない。
  
  「お前には便利でも、俺には困るんだ、もうすぐ雨もふるって聞いたしな。」
  
  ふーん、と生返事をしながら、天井を見上げる少女。
  
  少女はすっと立ち上がり、壁の材木のあたりに軽く触れた。
  
  数秒後、材木がメキメキとうごめき、少女が突き破ったと思しき穴をふさぎ始める。
  
  「……これでどう?」
  
  少女は少し得意げに青年を見下ろしたが、青年は小さくため息をついた。
  
  穴がふさがったとはいえ、なんだか鳥の巣のような形状になっていたのだ。
  
  「……まぁ、ありがとう、と言っておこうか。」
  
  「どういたしまして。」
  
  フフン、と得意げに鼻をならし、そのままちょこんと座る少女。
  
  
  
  「……あんたって、全然驚かないんだね。」
  
  少女が興味深そうに、青年を見ていた。
  
  「だって、翼だよ?木とか操っちゃうんだよ?、びっくりしない?」
  
  青年はそうだなぁ、とつぶやきながら、少しだけ考えたそぶりを見せる。 
  
  「ん……まぁ、今日はそんな気分じゃねぇ、とでも言っておこうかね…」
  
  ふうん、と応えたまま、少女は少し退屈そうに、つまさきをぱたぱたさせていた。
  
  青年の方はというと、目を閉じて、先ほどから流れている音楽に聞き入っている。
  
  「ねぇ…」
  
  「悪い、部屋から出て行け、とはいわねぇから、今だけは静かにしていてくれないか。」
  
  青年が少し強い口調で言うと、少女はそれっきり、両足を抱きかかえたまま、流れている音楽を聴いていた。
  
  切ないピアノの音、美しい男性の歌声、優しい歌詞。
  
  少女はそれをぼんやりと聞いているうち、いつのまにか眠ってしまっていた。
  
  
  
  
  
  少女が気がついた頃、辺りは夕日色に染まっていた。
  
  羽の痛みは随分とよくなっていたが、飛べるほどでもないようだ。
  
  バッ、と自分の衣服の確認をしてみるが、少々シワになっているだけで、何かされた様子はなかった。
  
  ほっとため息をついた後、辺りを見回してみても青年の姿はない。
  
  代わりに、小さい机の上に置かれたメモと、皿の上に置かれたサンドイッチに気がつく。
  
  少女にはメモに書いてある文字を読むことはできなかったが、状況から考えれば、腹が減ったら食え、といったところか。
  
  「…パンはわかる、として……この透明なのって・・・わっ、やぶけ…ていいの?これ…」
  
  皿にかけられたラップに苦戦しながらも、少女はなんとか食料を得ることに成功した。
  
  「パンに…何?コレは…野菜?」
  
  少女は怪訝そうにサンドイッチをぐるぐると見回す、どうやらサンドイッチという食べ物を知らない様子だ。
  
  数分ほど続けた後、腹の虫がやたらと騒いでいた少女は、思い切って一口食してみた。
  
  「…………!?」
  
  一瞬の間を空けた後、ものすごい勢いで食べ始める少女。
  
  サンドイッチをあっという間に食べつくした少女は、うっとりとした表情で、虚空を見つめていた。
  
  「人間ってこんなの食べてたんだ……」
  
  まだ物足りない気分だったが、家主が帰ってきたらまた作ってもらおう、そう決意した少女は、ごろんと横に寝転がる。
  
  再び訪れる静寂、昨日流れていた音楽が聞きたかったが、どこからどのようにして出ていたかなんてわかりはしなかった。
  
  少女は退屈さと同時に、どこかしら懐かしさを感じていた。
  
  「私って……ここに…」
  
  ぽつり、と独り言が出掛かったとき、別の部屋で扉の開く音が聞こえる。
  
  「おーい、生きてるか……おう、生きてたな。」
  
  青年は昨日とは違う、紺色の服を着ていて、少々眠たげな様子で、戻ってきた。
  
  「…死なないわよ、どこいってたの?」
  
  「あぁ学校…っつってもお前にゃわからんか?」
  
  青年はかばんを放り投げ、先ほど少女が食べた後の皿を片付け始める。
  
  「学校くらいあたしだって…、あ、それごちそうさまでした。」
  
  青年は背中向きに手だけ上げて見せて、そのまま別の部屋へ行ってしまった。
  
  しばらくおとなしくしていると、青年の向かった方向から、色々な音が聞こえてくる。
  
  少女はそれにやたらと興味がわいてきたが、背中の羽がうまくたためず、歩くこともままならない。
  
  しかたなく、青年が戻ってくるのを待つことにした。
  
  
  
  
  青年が家事を片付けた後、部屋に戻ってみると、少女はごろんと寝転がっているところだった。
  
  少女は、いかにも退屈だ、といわんばかりに両足をぱたぱたして見せた。 
  
  「やれやれ……手伝えってわけにもいかねぇしな、っと。」
  
  青年はぶつぶつと愚痴をこぼしながら、オーディオを操作して、昨日とは違う、明るい曲をかけた。
  
  「ねぇ…、昨日の音楽にはしないの?」
  
  少女が不思議そうに青年に問いかけた。
  
  「あぁ…ありゃ年に一回だけなんだ、あまり好きな曲でもねぇし…。」
  
  青年はそういって、机の上にあった本を手に取り、ごろんと横になる。
  
  「ふうん…、嫌いなのに、聞くの?」
  
  少女がそう問いかけても、青年は応えなかった。
  
  「……ねぇ、その本には何が書いてあるの?」
  
  退屈さに痺れを切らした少女は、青年の肩にのしかかり、本を指差す。
  
  「これは医者になりたい人が読む本さ…、勉強に使う本でもないけどな。」
  
  青年は読みながら、肩に乗ってくる少女にかまわず読み続けた。
  
  「ふうん……、そういえば、今日置いててくれた食べ物って、なんていうの?」
  
  青年は腕時計を見て、本を閉じた。
  
  「っと、もうこんな時間か……ありゃサンドイッチって奴だ、気に入ったか?」
  
  少女はこくりとうなづく。 
  
  「だろうな、それじゃ、準備しますか。」
  
  青年はゆらりと立ち上がり、部屋を出た。
  
  「だろうな、って……?」
  
  私の好みってそんなにわかりやすいのかしら、なんてつぶやきながらも、青年が持ってきてくれるであろう夕食に少女は熱い期待を抱いていた。
  
  
  
  
  
  「はーー……なんっって、おいしいのかしら……」
  
  少女はうっとりとした表情で、夕食の感想を漏らした。
  
  「はいはい、お粗末様、ってかよく食うなお前…」
  
  青年は食器を片付けながら、ぶちぶちと愚痴をこぼす。
  
  「悪かったわね……こんなにおいしいもの、初めて食べたんだもん。」
  
  むすっとした表情で応える少女、それでもどこか満足げな様子も伺える。 
  
  「そらよかったな……そういや、羽の具合はどうだ?」
  
  青年が何気なく聞くと、少女は少々申し訳なさそうにちぢこまった。
  
  「あぁいや…早く出てけとか、そんなんじゃねぇんだがな?」
  
  そういいなおして、青年は食器を片付けるべく部屋を出る。
  
  少女は少し、違和感を感じていた。
  
  突然降ってきた自分に驚くでもなく、言葉遣いこそ乱暴なものの、随分とよくしてくれている。
  
  人間は翼人種を見つけると鬼のような顔をして襲い掛かってくる、 だとか、少なくとも人間に捕獲されたと思しき翼人種の話しをよく聞いた。
  
  彼らは帰ってくることはないと言われていたが、何故帰ってくることがないのに人に捕まったとわかるのか、などと思ったものだ。
  
  そんな、少々信じがたい話も聞いていたほどだったので、最初は様子を見てから仲間を呼ぶつもりなのか、とさえ思っていた。
  
  何よりも不思議なのは、初めて接した相手とは思えない、心地よさ。
  
  私はこの人をよく知っているんじゃないか……?
  
  そんなことを考えているうちに、青年が戻ってくる。 
  
  「ねぇ……あたしたちって、前に会ったことなんか…ないよね……?」
  
  青年は一瞬きょとんとしていたが、そのまま机の前に寝転がる。
  
  「お前とは初めて会ったと思うぜ、どうかしたか?」
  
  少女はふるふると首を振り、なんでもない、と応える。
  
  青年はそれっきり、横になりながら本を読みふけっていた。
  
  少女はなんとなく、先ほどのように青年の肩に頭をのせ、青年の読む本を眺める。
  
  相変わらず青年は嫌がることなく本を読んでいたし、少女もなんとなくそうしていたかった。 
  
  聞こえてくるのは音楽と、本をめくる音。
  
  二人の鼓動が重なるのを感じると、なんともいえない安心感を感じる。
  
  そのまま、二人は体をあわせたまま、言葉を交わすことなくすごしていた。
  
  
  
  
  
  それから数日後、相変わらず青年は学校へ行き、少女は家で退屈していた。
  
  人間の世界には「テレビ」なる物が娯楽の定番として備え付けてあると聞いていたが、青年はテレビは余り好まないらしく、この家には置いていなかった。
  
  「本を読むにも文字がわからないし……つまんなぁーい…」
  
  床にごろんと寝転がり、両手足をバタバタさせてみるが、やっぱり退屈であることには変わりがあるわけもなく、すぐにやめた。
  
  こんなことなら音楽の出し方とかを聴いておけばよかった…なんて考えたとき、青年が音楽を出すときに触っていた機械に目が留まる。
  
  4つんばいのままパタパタとそれに近づいてみるが、どうにもボタンらしきものが多すぎてわけがわからない。
  
  「このなかのどれか……なんだろうけど、何がなんだか……ん?」
  
  オーディオの前で怪しい踊りをしていると、機械の上に絵の額縁みたいな、小さな木の板が伏せて置いてあることに気づく。
  
  「なんだこりゃ……なんで伏せて…?」
  
  何気なく手に取り、伏せてある面を見てみると、そこには青年と、女性が肩を組んでいる写真が入っていた。
  
  その写真をみて少女は胸のあたりが締め付けられるような痛みを感じた。
  
  「彼女……?、でもどこかで見たような……」
  
  どうにもその写真には違和感があった、知らないのに知っているような、概視感。
  
  「私…に似てなくもない…か、それにしても…」
  
  それにしても、この青年の笑顔。
  
  違和感を感じてじーっと写真をみていると、だんだん腹が立ってきた。
  
  「あたしにはにこりとも笑ってみせないくせにっ!!!」
  
  少女は写真を乱暴に伏せると、再び床に寝転がった。
  
  「……退屈だなぁ…」
  
  少女はぽつりとつぶやく、「帰ってきたらおいしいものいーっぱい作らせてやる!」と決心して、青年の帰りを待った。
  
  
  
  
  
  
  
  数日後、少女の翼はすっかり治っていた。
  
  「これなら明日には飛べるんじゃねぇの?」
  
  青年は包帯を外してやりながら、いつもとかわらない口調で言う。
  
  「う、うん、そうだね…」
  
  少女は少し寂しげな、しゅんとした様子で応えた。 
  
  翼が治ってしまえば、彼女にはここにいる理由がなくなってしまう、と考えていたのだ。
  
  何よりこのまま居座るのは、彼にも負担だろうと考えた。
  
  「明日の朝には……出て行くね…。」
  
  少女がそう告げると、青年は、そっか、とだけ応えて、そのまま包帯を片付けて、本を読み始める。
  
  何故だか無性に寂しくて、 いつものように青年に寄りかかろうとしたが、少女はそのままやめてしまう。
  
  「ねぇ……どうして、あんな出会い方したあたしを…、人間とはちがう、羽のはえたあたしを、助けてくれたの?」
  
  青年は少し考えるそぶりをみせると、読んでいた本をぱたんと閉じ、ゆっくりと起き上がった。
  
  「……ある意味、全然関係ない話なんだが、聞くか?」
  
  少女はこくりとうなづいた。
  
  
  
  
  青年があの曲と出会う前、彼は高校の1年生だった。
  
  彼には思いを寄せる女性がいた。
  
  彼女は彼よりも随分と年上で、何かと青年の面倒をみていたのだった。
  
  彼は最初、やたらとかまってくるその女性を 疎ましく感じていたが、次第に恋心が芽生えていた。
  
  しかし、その恋心はとうとう、彼女が知ることはなかった。
  
  彼女は、亡くなってしまったのだ。
  
  交通事故だったようだが、彼はそのときのことを知ろうとはしなかった。
  
  そのまま彼は、家に引きこもりがちになり、高校をやめ、孤独な世界に身をおいていた。
  
  そんな彼がある日、気まぐれにオーディオに手を伸ばすと、聞き覚えのある、でも、余り好きではなかった曲が聞こえてくる。
  
  彼女が愛した曲、少々古い曲ではあったが、偶然、本当に偶然に、ラジオで放送していたのだった。
  
  
  「その曲を聴いてから、かな、医者になってやろうって考えた。」
  
  青年は淡々と、他人の事を話すようにして、語り続ける。
  
  「あの人は帰ってこないのはわかってるんだが、な、あの事故のことや、似た事故について随分と調べたよ。」
  
  ふう、とため息をついて、オーディオの上に伏せてあった写真を手に取る。
  
  「お前が降ってきた日は彼女の命日だ、そんな日にあの人に姿も性格も似た女の子が怪我してりゃ、なんとかしたくもなるだろ?」
  
  少女はぼろぼろと涙をこぼしていた。
  
  「いや…お前が泣かなくてもいいだろ…あの時は俺でさえ…」
  
  「かず…くん?」
  
  青年はびくりと体を振るわせる、少女に名前を告げた覚えはないし、なによりもその呼び方は……。
  
  「そっか……、どうしてあの日、外に飛び出したくてしょうがなかったのか、やっとわかったよ……」
  
  少女は青年に寄りかかり、きゅっと抱きしめる。
  
  「あたしは、かずくんに会うために来たんだね……五年前のあの日、あたしが事故にあって、会えなかったから……」
  
  青年は少女を強く抱きしめる。
  
  「ごめんね……かずくん…すっごく、待たせちゃったね……ごめんなさい…。」
  
  泣きじゃくる少女を抱きしめたまま、いつもと変わらぬ表情で、青年は、泣いていた。
  
  
  
  
  
  
  「……で、今日は出てくっつってなかったか?」
  
  青年が珍しく、意地悪そうな表情で少女にといかける。
  
  「…んもう、私のきもち、わかってるくせに……」
  
  少女はぶすくれてはいたものの、その声にはどこか、甘えが混じっていた。
  
  「そっか、まぁ居たいだけ居ればいいさ……昼飯はここに置いてくからな。」
  
  青年は満足そうにそういいながら、どたばたと出かける準備をしている。
  
  「それじゃ、行って来るよ。」
  
  少女は玄関先まで青年を見送ると、やさしく、頬にキスをした。
  
  「うん、いってらっしゃい。」
  
  青年は少し驚いた様子だったが、そのままどたばたと学校へ向かって駆け出していった。
  
  
  
  おわり。